寮生活の基本-自己管理について2
持ち物に関する自己管理は具体的な対策をもって対応することができます。しかし、こころの部分の自己管理が留学生にとっては大きな課題といえると思います。前項では自己責任という考え方を取り上げて、ボーディングスクール文化に適応する方法を考えました。ここでは別の観点からこころの自己管理について考えてみます。
担当の先生に週末にショッピングセンターに行きたいと言ったら「OK、You・・・」と言われたので安心していたら、私の名前がリストに載ってないので行けないと言われた。何か説明されたが、英語がわからずに終わってしまった。勇気を振り絞ってアメリカ人生徒に英語で説明をもとめてみたが、相手の言っていることがわからず3回聞き返したら「イッツォッケイ」と言われて行ってしまった。何をやってもうまく行かずにアメリカの田舎で寂しく過ごす時期が留学生なら誰でもあるはずです。こんな時期があるからこそ、留学生は国別にどうしてもグループを作ります。寂しいときは誰しも人恋しくなりますし、ましてまわりに日本人がいれば寄り添わないほうがおかしい。わからないことは何でも聞けるし、日本語だから間違えはない。
しかし、現実は初年度の留学生は7割くらいが転校を考えます。転校の理由の90%以上が人間関係がうまく行かないことによりますが、その人間関係とは日本人同士なのです。寂しいからといって日本人に甘えてしまった結果、留学リセットということになってしまう。寂しくても、こころの自己管理は厳しいほうが、良い結果が出る。ボーディングスクールライフは人生を教えてくれるところでもあるのではないでしょうか。
日本人同士の人間関係がうまく行かなくなる理由はお互いの我の張り合いとも言うべき状況から発生します。そもそも留学を志した目的をそれぞれの留学生は持っているわけですが、初めのころはあまりの寂しさについ楽なほうになびいてしまう。よくわからない英語よりも日本語でコミュニケーションをしたいのは当然ともいえます。ところが数ヶ月して徐々に英語の世界が広がってゆくと、授業以外は日本語で済ませてしまっている現状に疑問が出てくる。そう思ったときには日本人同士特有の義理的な団結のしがらみから抜けられなくなってしまうのです。志を再確認し、お互い甘えるのはやめようといった自己責任の共有や自己管理の話し合いよりもリセットを選択する。
「はじめは昼食時、寮のフリータイムの時間に頻繁に話をしたし、いろいろと助けてもらった。そろそろその助けが必要ないからといって、ハイさようならなんて言えない。」
そうですね。それでは先に留学したいわば、年齢は別としても、先輩に対して顔向けが出来ないですね。現代の若者もきっちりと義理をわきまえた発言だと思います。欧米人にはこの「義理」が解らない。問題は初期設定にあったわけです。さらに、相手がグループであった場合は、グループを脱退するためにも「仁義」を切らないといけない。だからリセットなのでしょう。
多くの生徒が留学して日本人関係でこれほど悩むと思わなかったと言います。既存の留学生からこれから留学する人へのメッセージとして義理と人情を大切に(自己責任を重視する)、そしてくれぐれも人に甘えないよう(自己管理を徹底する)にと言えるでしょう。
自己管理の力は自己責任の意識と平行して大きくなってゆきます。やはり、失敗から学びその悔しさをバネにしてボーディングスクールライフを自分のものにしてゆかなければなりません。
学校訪問の際にいずれのボーディングスクールでも日本人留学生から男女を問わず「この先生はすっごくいい人」という表現をたくさん聞きます。彼らの言う「いい人」というのは相手の気持ちを共感できて、行いをもって答えてくれる人だということでしょう。もちろん私も彼らの言う「いい人」と挨拶をするわけですが、彼らは例外なく笑顔が優しいのです。うれしそうな表情にうそがない、表現が適当でないかもしれませんが、世話好きなのが見て取れます。また、話好きで付き合いがいい。私が「この子はしっかりやっていますか」などと質問すると「いい人」の多くが延々と続く説明をしてくれます。
ボーディングスクールを支えているのは、教えることを愛し、生徒を愛せるそのような先生なのだと思います。