日曜コラム 読書という能力
留学を希望する生徒の中には、特殊な能力を持った生徒がいます。
「読書は好きですか」というのは、ボーディングスクールのインタビューでも
時々出てくる質問ですが、私は留学希望の生徒たちに
この質問をすることにしています。
読書に関して、とても印象深い生徒がいました。
すこし古い話ですが、その生徒がお父さんを伴って相談に来た目的は、
アメリカ大使館で学生ビザを拒否されたので、その対処方法を知るためでした。
お父さんの仕事の関係でアメリカに5年ほど滞在し、結果として
ボーディングスクールへの留学を本人の希望で選択したのですが、
学生ビザが発給されなかったということでした。
現在のアメリカ留学事情からは考えられないような話ですが、
日本のアメリカ大使館は過去に2回、学生ビザ発給を厳しく
制限した時期がありました。
一回目は、1990年代、2回目は2000年代だったと思います。
ビザ不発給の理由は、「アメリカに永住する可能性がある」という曖昧なものでした。
その根拠となる証拠は示されず、そもそも、申請者にそうする意図は
ないのに、一方的に判断され、ビザ発給を拒否されるという理不尽な状況でした。
その領事判断を覆すには、新たな証拠の提出と面接が求められました。
新たな証拠とは、たとえば親の源泉徴収票、職歴書、家の土地の権利書などの、
「本人と日本との絆」を示すものという、これも曖昧な概念です。
一言でいえば、領事を納得させる申請者の態度が重要でした。
相談に来た生徒は当時13才だったと思いますが、
お父さんよりも早く、私の「ビザ取得のための戦略」を理解して、
自分が何をしなければならないかを即座に把握しました。
話しの途中から、私は本人と直接話して、
それをお父さんが傍観するようになりました。
結果として、本人の学生ビザは発給され、
本人はジュニアボーディングスクールに留学をしました。
更に、その後の進学先は、テンスクールズの一つLawrenceville Schoolでした。
ビザ取得相談のご縁で、私は本人の学校訪問に同行したのですが、
キレの良い受け答えと、相手の質問の意図を的確に捉える鋭い洞察力は、
TOEFLやSSATの点数がアメリカ人優等生には届かなくても、
十分に本人のトータルな人間としての魅力を発揮していました。
その本人の小さな時から好きなことが、読書と書くことだったのです。
今でも、読書は好きですかという質問に「はい」という回答があると、
私はホッとします。
最近も、ハリー・ポッターシリーズの本を1日で読むという生徒がいました。
英語は初級レベルですが、その力は留学後に惜しみなく発揮されるでしょう。
継続的な読書は、さまざまな可能性を私たちにもたらしてくれると思います。