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日曜コラム 故郷 こころの風景

私には故郷が2つあります。
一つは母の住んでいる実家としての故郷。
もうひとつは、子どものころ、時のたつのも忘れて遊んだ故郷です。
今でも小学校時代の遊びを鮮明に覚えています。
自分の家から5分も歩くと眼下に一面の田圃がひらけ、
その先に川が流れています。
天神橋という木製の橋がその川にかかっていて、橋の下は絶好の釣り場でした。
自宅から砂利道を通って、天神橋下までよく釣りに出かけました。
春になって桜が散る頃になると、天神橋近くにある
小さな沼でマブナが釣れるようになります。そして、時にはコイもかかります。
日が伸びて6時半ころまで水面の「うき」が見える季節になると、
夕方から魚たちが活発に動き始めるのか、ぴくぴくと動く浮きをみつめて、
あと一匹、あと一匹と思っているうちに、沼面からフワーと霧がたち、
気が付くとあたりが真っ暗なんていうことが幾度もありました。
田圃のあぜ道ではよく蛇に遭遇しました。
おおかたが茶、赤、黄色が曼荼羅模様になったやまかがしでしたが、
時には1メートル以上もあるアオダイショウや茶色のシマヘビもいました。
マムシには結局遭遇しませんでしたが、蛇に遭遇する度に、
あぜ道を取って返し、他のあぜ道にも蛇がいるときは、「やれやれ」と思いました。
橋のたもとにはハヤやヨメゴ、タナゴなどの川魚ばかりではなく、
子どもごころをくすぐるサイズフナやコイなどもいました。
すきとおった水を覗き込み、手のひらサイズの魚を見つけては、
ドキドキしならがそのスポットに釣り糸を垂れるのですが、
餌を食べるのは周辺のザコばかりで、めったに川では大物は釣れません。
今、小さな川でも見られる30センチ、40センチのコイは
当時の天然の川には人目につくところにはいませんでした。
春は一面のピンク色のれんげ畑。
夏は緑の草のにおい
秋は収穫が終わった田圃にうず高く積まれた藁
冬は氷が張りつめた田圃と土手すべり。
そんな故郷は今、完全に消えました。
田圃はすべて住宅地と大手スーパーに変わりました。
マブナを釣った沼は完全に埋め立てられました。
天神橋は人が通れる幅の鉄の小さな橋に変わりました。
となりに片側2車線のバイパス道路を支える巨大コンクリート橋がかかりました。
イタチも野兎もすべてどこかに消えてしまいました。
でも、こころの中の故郷はいつでも私を、あの世界に連れて行ってくれます。

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